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代表理事あいさつ

時代と社会の転換点にたつ「日本特別ニーズ教育学会」

日本特別ニーズ教育学会第9期理事会
代表理事 加瀬 進


   学会員の皆様、ひとこと、ご挨拶申し上げます。
   2020年5月現在、日本における感染自体は若干の収束傾向を見せ始めている新型コロナウィルス感染症(COVID-19)ですが、世界的には感染者の増加がとどまらず、わが国でも先行きが不透明な中で厳しい生活を強いられる日々が続いています。子どもたちの命と健康を守り、学びと社会参加の権利を奪わぬような対応が試行錯誤され、模索されています。音読禁止の国語科・歌唱や楽器演奏を行わない音楽科・教具に使用制限のかかる体育科等々における指導計画の見直し、給食の実施方法、行動障害のある児童生徒のストレス軽減、基礎疾患があるうえ医療的ケアが必要な児童生徒に対する家庭介護の負担の軽減、といったように数え上げれば際限のない課題が指摘されつつあります。
   しかしながら、こうした課題は今回の感染症によってはじめてもたらされたというよりは、すでにあった課題、すでに内在化されていた課題が可視化されたと言えるのではないでしょうか。
   例えば「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society5.0)」を築くといった政策が高らかに掲げられています。オンライン授業が見直され、実施される中で、視覚・聴覚障害をはじめとする多様な情報保障ニーズへの対応が求められています。     一方、実施のための端末不足や通信環境の不備が露呈し、それを補填するための経済出動が検討されています。しかしながら、そもそも家賃が払えないことへの対応が先である、という情景が広がっているわけです。
   本学会の目的は「特別ニーズ教育に関する理論的・実践的研究を通して,学習と発達への権利に関する教育科学の確立を期する」というものです(会則第3条)。「特別な教育的ニーズ」あるいは「特別ニーズ教育」とは何か、という問いは第8期理事会において改めて立論され、2020年6月刊行の『現代の特別ニーズ教育』(高橋智・加瀬進監修、日本特別ニーズ教育学会編、文理閣)において展開されました。第9期理事会(2019年10月~2022年学会大会開催時)はその成果を引き継いで、次の世代への移行を確実に進めることを任とする、と位置づけていますが、「時代と社会の転換点」の在りようを見極めつつ、「学習と権利」の内実を描き出して豊かに保障する教育科学の確立に向かわなくてはなりません。
   学会員の皆様とは、この問題意識を共有し、困難な課題に対して「正義と勇気」、そしてリアリティをもって対峙したいと願っています。
   最後に、本学会が発足した1995年に出版された、二人の中学生の意訳による「子どもの権利条約」第3条を引用し、ご挨拶を閉じたいと思います。

「お父さんやお母さんやそれに代わる人、そのほか子どもに“しなきゃいけないこと”がある人、そんな人たちみ~~んなが力を合わせて、僕ら子供が幸せになれるように、護ったり、育てたり、そのほかいろいろしてくれる。国はその人たちと協力して、ぼくらを護るためにできることは全部してほしい。」

 

出展:小口尚子・福岡鮎美訳(1995)『子どもによる子どものための「子どもの権利条約」』、小学館
 

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