第24回研究大会
日本特別ニーズ教育学会 第24回研究大会
課題研究Ⅰ・Ⅱ
【理事会企画:課題研究1】
マイノリティの視点からみた特別ニーズ教育―「性同一性障害」に焦点を定めて
企画趣旨
性同一性障害(GID)当事者の日野由美氏、中川未悠氏からの実践と体験をふまえた課題提起、指定討論者・伊藤修毅からの提起などを交え、性同一性障害を中心とする性的マイノリティの過去・現在・未来の課題を、特別ニーズ教育に引きつけて探究する。
周知のとおり文科省は、2015年4月に「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」、2016年4月に「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」を全国の学校に向けて通知している。そこでは、支援事例として、「自認する性別の制服・衣服や、体操着の着用を認める」、「(修学旅行等において)1人部屋の使用を認める。入浴時間をずらす」等が紹介されている。これらは、仮に表層的な対応であったとしても、当事者の運動やねがいを反映させたものであり、進歩的事象であることは言を俟たない。今後、これらの実践や認識を、ニーズを有する全ての児童・青年に行き届かせることが課題となる。
日野由美氏は、北海道苫小牧生まれの62歳。性同一性障害についての認識や理解のない時代を生きてきたという歴史の体現者であり、当事者活動を切り開いてきた先駆者である。さらに高校教師として、性的マイノリティに対する差別・排除・無理解の実相を学校教育の内側から見てきた観察者である。この多重性において、日野は稀有な存在である。
中川未悠氏は、2018年4月に神戸の大学を卒業したばかりの新社会人。大学3回生の春休みに性別適合手術を受ける。中川はこの経緯を含め、サブタイトルに「爽やかLGBTsドキュメンタリー」を謳う「女になる」(監督/田中幸夫)の被写体として、自身の〈生〉と〈性〉のあり方を広く社会に問う道を選択する。すなわち、代弁者としての役割を自ら買って出た新世代の当事者である。
企画
猪狩恵美子(福岡女学院大学) / 二通諭(札幌学院大学)
司会
二通諭(札幌学院大学)
話題提供者
日野由美(GID当事者)
中川未悠(GID当事者)
指定討論者
伊藤修毅(日本福祉大学)
【理事会企画:課題研究Ⅱ】
改めて「特別ニーズ教育とは何か」
企画趣旨
本学会設立の趣旨には、特殊教育に関連する各学会が心理学的研究に偏重していることや、当時の特殊教育政策に対する批判的意識が希薄であることに対する批判等の受け皿として、障害児教育学の発展を志向することが含まれていました。サラマンカ宣言も大きな刺激となり、障害のある子どもだけでなく、広く特別な教育的ニーズをもつ子どもの教育を対象とする研究の必要が自覚されてきました。
サラマンカ宣言が「インクルーシブ教育」「インクルーシブな学校」を提唱したにもかかわらず、従前の統合教育(インテグレーション)とインクルーシブ教育との違いや、特別ニーズ教育“Special Needs Education”の定義、理念、概念について、共通理解は必ずしもされてこなかったのではないかと考えられます。“Special Needs Education”は、特別な場に限定されず、通常の教育の場においても特別なケアを保障するものであるとするのが素朴な理解と考えられますが、特別ニーズ教育は通常学級における特別な指導・支援を意味するという提起や、能力原理に代わる必要原理に基づいた、「ニーズ教育」があり得るとして、“Special”な“Needs Education”についての提起なども展開されてきました。
21世紀に入り、特別支援教育についての議論が活発となりましたが、特別ニーズ教育と特別支援教育の区別、インクルーシブ教育と特別ニーズ教育の区別等も明確になりにくい現状があります。
そのような動向を踏まえて、本課題研究の一年目では、本学会のこれまでの研究活動を踏まえ、「特別ニーズ教育とは何か」、何を目指すのか、インクルーシブ教育や日本の特別支援教育との関係はどうあるのか等について、整理する機会としたいと考えます。
企画
荒川智 学会理事・茨城大学教授 / 村山拓 学会理事・東京学芸大学准教授
司会
村山拓 学会理事・東京学芸大学准教授
話題提供者
村山拓 学会理事・東京学芸大学准教授
特別ニーズ教育研究における対象・方法・概念をめぐる近年の動向
渡部昭男 学会理事・神戸大学教授
改めて「特別ニーズ教育」とは何か―法制度、憲法理念、コミュニティ―
指定討論者
清水貞夫(宮城教育大学名誉教授・本学会名誉会員)
田中良三(愛知みずほ短期大学特任教授・愛知県立大学名誉教授・本学会名誉会員)